■野戦電話 33型 マニュアル

1934年10月10日に発行された野戦電話FF33用の珍しいマニュアル「H.Dv.95/13 Der Feldfernsprecher 33.」。掲載品は1935年版。表紙サイズは縦21×横15cm。ここでは写真や回路図を含む全ページを日本語訳で紹介する。

日本語訳にはオリジナルマニュアルには書かれていないものの、内容をより理解しやすいよう補足の文章を追加した。これらは「※注釈」として赤い文字で表記している。

和訳内容の確認と注釈文の追加にあたり、ドイツ軍野戦電話に詳しい「野うさぎ屋」様にご協力を頂きました。心より感謝申し上げます。













21ページまでは文字解説、それ以降は16枚の折り込み図があり24枚の写真や回路図などが収録されている。




途中で内容の改定があったためか、数か所に内容訂正の紙が貼られている。








FF-33とは

1.携行用の野戦電話。手回し式の発電機で相手を呼び出し、通話は内蔵の乾電池で行う。2軸端子/2芯コードでも単線+アース接地でも使用でき、軍用の交換機・中継器や既存の回線に接続可能。
※注釈
既存の回線とは一般電話回線のこと。


2.構成品
本体に加えて、受話器(ハンドセット/送受話一体)、発電用クランク、接続コード、乾電池、肩掛けベルト等が一式で供給される。

3.堅牢性と携行
ケースは丈夫で防湿仕様。輸送・携行時はフタを閉め、金具とベルトで固定する。

4.呼び出しと通話
相手を呼ぶときは、受話器をフックに掛けた状態でクランクを回し、呼出電流を送る。着呼時は内部ベルが鳴る。受話器を上げると回路が通話状態になり、炭素マイクと電池(通常1.5V)で音声を送受する。通話後は受話器を戻して回線を開放する。
※注釈
この操作方法はダイヤル式電話機以前の磁石式電話機(乾電池給電式)全般と思われる。
実際のFF33では、
・受話器をケースの上に置く、あるいは肩掛けベルトのフックに掛ける。
・クランクを回し、呼出電流を送る。
・着信時は内部ベルが鳴る。
・受話器を手に取り送話キーを押し込むと回路が通話状態になり、炭素マイクと電池(通常1.5V)で音声を送受する。
・通話後は受話器の送話キーを離して回路を開放する。(回路を開放する事により電池の消耗を抑止する。)


回線(通信線)のつなぎ方
端子にはa/b(回線)とE(接地)がある。2芯式は a・b に、単線式は a・E に接続する。

注意事項
通話中に発電クランクは回さない(機器・受話器保護)。湿気・泥や砂を避け、接点や端子は清潔に保つ。電池が弱る(1.0V未満)と音量低下・歪みが出るので交換する。


A. 一般

1.FF-33(野戦電話33型)は、内蔵の乾電池と手回し式発電機を備えた単体で完結する野戦用電話機である。

2.併用できる付属機器
ヘッドセット 33
交換局接続器 33
・ヘッドセットは聞き取りを良くする、もしくは2人目が同時に聴くために用いる。
・交換局接続器はFF-33を帝国郵便(公衆網)の電話交換局へ接続(交換局から通話電源や呼び出しが供給される場合に限る)するときに使用する。
※注釈
公衆網=当時の一般電話回線にあたる

・これら付属品は別途請求・個別梱包・個別輸送される。

3.FF-33の主要構成
a) 金具付き外箱
b) 取り外し(脱着)式ショルダーストラップ
c) 機器ユニット一式
d) 専用ケース入り野戦用乾電池×1
e) 受話器(マイク・受話カプセルはいずれも交換式)
f) 接続コード
※注釈
接続プラグ(Vermittlungsstöpsel)1本。





B. FF-33 各部の説明

I. 外箱

4.外箱(図1)
厚さ約5mmの絶縁性の樹脂成型品(ベークライト)で作られた頑丈なケース。
下半分は箱本体、上半分はふたとして機能する。ふたはケース背面の蝶番で本体に連結。前面には新型の錠前が備わっておりフタは閉めると自動ロックされる。開けるときは、錠前の上側を軽く押すと楽に開く。

前面の開口部
前面板には、交換台へつなぐ接続プラグ(Vermittlungsstöpsel)用の穴(2穴、蓋つき)と、ベルの音が出る開口のカバー板がある。
※注釈
「交換台」だけではなく、2台まで(2穴)野戦電話機や無線通信機等への接続が可能。


側面の金具とストラップ
両側面に肩掛けベルト取付け金具を装備。ベルトが勝手に外れない構造で、ケースに向けて押し込んだときだけ外せる。
※注釈
ベルトの取付け金具により勝手に外れない構造で、ケース下方から上方へ引く様にして装着。逆に上方から下方へ押し込むと外れる。


側面の各種開口
右側の狭い側面に発電クランク差し込み口(蓋つき)。左側の上縁には、ケース本体の上辺とフタの縁それぞれに柔らかいゴム帯があり、電線(通信線)や受話器・ヘッドセットのコードを通すための「隙間パッキン」になる。この2本のゴム帯がフタを閉めたとき泥や水の侵入を防ぐクッションとなり、内蔵ユニットを保護する。

5.肩掛けベルト
長さはローラーバックルで調整可能。両側面の金具に吊り下げる形で装着する。ベルトにはフックが付き、携行時に受話器を掛けておける。
※注釈
フックは野外等、野戦電話機を吊り下げて保持する時(野戦電話機を置く場所が無い場合)に受話器落下を防ぐ為にも使用する。


6.フタ外側の表示
外側にはフォネティックコード表(Buchstabiertafel)(右側)と白いメモ板(左側)を装備。ここへの記入は鉛筆のみ許可(インクや万年筆は禁止)。
※注釈
メモ板の上辺にストライプがある。このストライプが緑色の場合、陸軍・空軍仕様の野戦電話機、黄色の場合は海軍仕様の野戦電話器であることを示す。但し、初期型のみストライプ無し。


7.フタ内側
「Stromlauf(配線図)」(左側)と「Schaltbild(回路図)」(右側)を掲示。さらに幅広の板バネがあり、受話器を当て板にしっかり押さえつけて固定できる。
※注釈
板バネは回路図と配線図の間にある。







II. 内蔵ユニット

8.取り外し
図4〜6の内蔵ユニットは、発電クランクがねじ込まれていない状態で、上面にある外れないタイプの固定ねじ2本(図3、外すべきねじは赤で縁取り)を緩めればケースから引き抜ける。
※注釈
本体の取り出しは通信線接続端子を掴んで引き抜く。
引き抜く際、損傷防止のため本体ケースをひっくり返してはならない。


ユニットの側面には2枚の防護板が付き、砂や泥などの侵入を防止する(図4~6)。防護板には各2個の音孔が開いており、細かい金網で覆ってほこりの侵入を防ぐ。外すときは鋼製の留め金をパチンと外すだけ。

9) 電話機本体の構成

軽金属のフレームに、
発電機/交流ベル(呼出音)/接続ジャック/通話用コイル(トランス)/コンデンサ/端子台(2口・5口のソケット列)/試験ボタン/電池を収納する着脱式のカップ(樹脂成形品)
が収められている。
配線は被覆した銅線で、線は一本の配線ケーブルにまとめ、ワックス含浸で絶縁性を高めている。

10) 電話機上面(図4~6)

上面には絶縁/樹脂成型品の端子台があり、ライン(通信線)端子 La と Lb/E、ヘッドセット用2口・受話器用5口のソケットを備える。La と Lb/E の間には高い絶縁リブが立ち、むき出しとなった(通信線である)導体同士が触れるのを防止する。
端子台の脇には発電クランクを差し込んで格納する穴。
すり鉢状のくぼみは受話器・送話口の当て台。

端子台横の電池カップのフタには、開閉用のつまみ2個と受話器を載せるフェルト帯が付く。フタ裏の板バネは収納した電池の縁を押さえて固定する。フタの下側には電池接続端子付きの絶縁板がある。
※注釈
電池カップの蓋の開閉用つまみ形状は製造会社により1個やスリット状等も存在する。
同様に蓋の内側のフェルト帯が無い機種も存在する。
電池接続端子付き絶縁板は、電池カップを引っ掛けて保持する役目もある。




11) 電池
野戦用電池(Feldelement)1個を樹脂成型品の電池カップ(図7)に収納。電解液が多少しみ出しても耐える作り。汚れを楽に掃除できるよう、ねじを外さず横からカップだけ引き抜ける。

12) 発電機(図5,6,8)
フレームのベース板に3本のねじで固定。
幅広の永久磁石を芯に、両側の軸受板の間に回転子(アンカー)を張っている。下面は保護板で覆う。
回転子のコイルは絶縁銅線で約400Ω。巻線の端はスリップリングへ導き、ここにブラシばねが当たって呼出交流を取り出す。
駆動は歯車列で、発電クランクを右回しで駆動軸にねじ込んで回す方式。
通常の回転数「毎秒3回転」で約18Hzの呼出周波数、発電機の出力電圧は約75Vとなる。
※注釈
実際の出力電圧は約70~90V(回転速度によっては100Vを超える)である。高電圧となるため感電に注意する。


13) 自動切替え機構(Umschaltefedersatz)(図8)

クランク側と反対の軸受板に取り付け駆動軸の動きで作動する。
待機中はa線側に入っている発電機を短絡(ショート)しておき、クランクを回すと自動的に短絡を解除して発電電圧がライン端子へ出る(=切替接点の動作)。

14) クランクを離した後
回転をやめるとばねの力で駆動軸が元の位置に戻り、アンカー巻線は再び短絡されて保護状態になる。






15) 交流ベル(Wechselstromwecker)(図5,6,9)
発電機の隣にフレームのレールで固定(図5)。
棒磁石の一端(北極)に軟鉄の極片2個があり、それぞれにコイルが1つずつ。2つのコイルは直列でつながる。
棒磁石の反対端(南極)には可動アンカー(軟鉄)があって、2つの極片と向かい合う。
アンカーの下端にはハンマーが付いており、左右の鐘を交互に打って鳴らす。

16) 接続ジャック(Anschlußklinken)

ベル横の接続ジャックは、端子 La・Lb/E と並列につながっており、同ページ後段で述べる両端にプラグが付いた「交換用コード(Vermittlungsschnur)」を使えば、複数台のFF-33を相互にパッチ接続できる(詳しくは「回路・運用・操作」の章)。

18) 接続ジャックの内部には互いに絶縁された2本の接点バネ(短い a バネと長い b バネ)があり、プラグを差し込むと先端と胴(カラー)にそれぞれ当たって導通する。

19) 通話用コイル(Sprechspule)と試験ボタン(Prüftaste)は発電機の上に配置。
通話用コイルはマイクで作る直流を交流に変換して回線へ送る役目を担当。巻線は4系統あり、

1巻線:マイク回路

2・3・4巻線:ライン側
このうち4巻線は実質“抵抗(オーム抵抗)”として働く(図16~21参照)。

20) 試験ボタンは、自機の発電機とベル、さらに接続中の外線の確認に使う。押すと動作する遮断接点を内蔵。

21) 発電機とベルの間には各1µFのコンデンサを2個挿入。
一つは受話器回路に、もう一つは通話用コイルと直列で入り、呼出交流に対しては回路の交流抵抗を大きくして発電機からの電流が主にベル側へ回るようにする。一方、通話電流に対しては事実上ほとんど抵抗にならない。


III. 電池(Batterie)

22) マイク用の電源には野戦用電池(Feldelement)1個を用いる。電池の仕様・扱いは「H.Dv.91」を参照。


IV. 受話器(Feldhandapparat)

23) 受話器(図10・11)は絶縁・樹脂成型品。握り部には送話キー(Sprech taste)を収める凹みがあり、受話器カプセル側のハウジングとマイクカプセル側のハウジング(送話口付き)を備える。両カプセルは着脱式。
付属品:4芯の受話器コードと5極プラグ。

24) 送話キーは細長い板状で、下にばね付きの閉接点(マイク回路用)がある。キー枠には突出ノブが3個(図10・11)。受話器をケース上の所定位置に置くとこのノブが押されてキーが作動し、回線が待機/通話に切り替わる(図14・操作章参照)。
※注釈
この文章では突出ノブの誤記がある。正しくは、
受話器をケース上の所定位置に置くと突起ノブにより送話キーが押されずに回路が待機(回路閉鎖)状態となる(図14・操作章参照)。


25) 受話器・マイクの各ハウジングには、それぞれの給電用接点バネが設けられている。カプセルを所定の位置に差し込み送話口側は締付リングで、受話器側は耳当て(カップ)をねじ込んで閉じる(図11)。

26) 受話器コードはマイク・受話器・送話キーを相互絶縁の4導体で5極プラグに結ぶ。機械的保護のため丈夫な糸で編組してある。

27) 5極プラグは絶縁材の本体に5本のピンと金属保護キャップを備える。ピンの後端はコードの各導体に接続されるが中央のピンは空き。配線部は絶縁シルク張りの金属キャップで覆い、キャップには引き抜き用のつまみとコードのストレインリリーフ(口金)を備える。キャップ表面には受話器の結線図が刻印。誤差し防止のため、端子台側にはロック用ピンがねじ込まれている。
※注釈
恐らく1940年頃までは金属製の保護キャップ付き、それ以降は保護キャップ無しの樹脂成型品に切り替わるのではないかと思われる。


V. 交換用コード(Vermittlungsschnur)

28) 交換用コード(図13)は2芯のコードで2本の導体の外側を、強い糸で共通の編組にして機械的に保護している。

2芯用ダブルプラグ
先端 a・くび b・胴 c の互いに絶縁された3部品とつまみ(樹脂成型品のカバー)・コード保護部(保護スプリング)から成る。
2本一組のうち、先端a同士がコードの片方の導体に、くびb同士がもう一方の導体に接続。胴cは配線されない。

29) マイクカプセル(図12)
薄い金属製カップの底に炭素粒を受けるフェルト輪付きの炭素ブロックがあり、ここから接点バネに導かれる(バネはカップから絶縁して裏面に固定)。
フェルト輪の上に約0.5mm厚の炭素板膜(マイク膜)を置き、壊れやすい膜を守るため穿孔した保護板でふたをする。FF-33用のマイクカプセルは、この穿孔板に「緑の十字」で識別。
(初期納入分にあった白環付きのマイクは今後調達しない。)

30) 受話器カプセル(図12)
基本は通常の受話器と同じだが、交換しやすいよう磁気系をカプセル化。
絶縁板の上に磁石と軟鉄ポールピース2個(両端ボビン2個)を固定し、それぞれに受話器コイルを載せる。巻線は直列。一端は金属カップ壁へ、もう一端は接点板へ行きこれが給電となる。
受話器膜はカップの内側の張り出しに嵌め込み、磁気系は膜との正しい間隔になるまでねじ込み式で調整する。カプセルは工場で正規に調整済みで色の印がその設定を示す。
→ 受話音が悪くなったらカプセルごと交換(※カップ内での再調整は整備員のみが実施)。

C. FF-33 の付属機器

I. ヘッドセット33
31) 聞き取りを良くする、または2人目の聴取のためにFF-33 の端子台にある2口ソケットにヘッドセット33を差し込める。詳しい仕様は「H.Dv.95/28」を参照。

II. 交換局接続器33
32) 帝国郵便の電話網(公衆網)へ FF-33 を接続するためのアダプタ。
OB網の局設備を制御するための各装置(自動終話符号:SB運用を含む)を内蔵しZB(中央電池式)やSA(自動式)の電話網にも接続できる。接続の詳細と本器の説明は「H.Dv.95/16」を参照。
※補足
OBはOrtsbatterie(局外電池式/ローカルバッテリー)の略。通話に使う電気は電話機内の電池を使い、手回し発電機で呼び出す、これはFF-33本来の使い方。
SB = selbsttätiges Schlusszeichen(自動終話符号。OB網での終話処理に関する用語)
ZB = Zentralbatterie(中央電池式:通話電源やベルは局側供給。FF-33は「Amtsanschliesser 33」経由で接続)公衆網
SA = Selbstanschluss(自動交換網。接続は「Amtsanschliesser 33」経由)こちらも公衆網







D. FF-33 内の「電流の流れ」

33) FF-33 の回路図は図15。装置内のすべての接続が描かれているが、交差が多く流れを追いにくいため、フタの内側には実体配線図(図2)も掲示してある。こちらは装置内の実際の配置にこだわらず各部品を「どの流れに属するか」が分かりやすいようになっている。

34) 図16には受話器を挿した状態の電流経路を示す。太線で描いた部分が各電流の追跡を見やすくしている。
発信側の呼出電流(図17)

35) 発電機のクランクを回す。

D. FF-33 内の「電流の流れ」(つづき)
回路の試験(図18)

36) クランクを回し、試験ボタンを押す。
→ 自機のベルが鳴れば線路・装置が正常。
着信呼出電流(図19)

37) 相手側からの呼出が来るとベルが鳴る。
発信側の通話電流(図20)

38) 受話器を取り上げ、送話キーを押した状態。
声で生じるマイク直流の揺れ(巻線1 )を通話用コイルの巻線2・3が交流に変換し、巻線4(抵抗巻線)とコンデンサCを経てLa/LbE端子 → 線路 → 相手局へ送る。
巻線2・3・4は、自分の声(サイドトーン)が自分の受話器に強く返ってこないように設計されており、一部を相殺して弱くしか聞こえない(減衰回路)。
着信側の通話電流(図21)

39) 相手からの通話電流は、巻線2 → 受話器 → 2個のコンデンサを通って流れる。巻線3・4は受話信号に影響しないような値・結線になっている。
「受話専念(Lauthören)」モード(図21)

40) 送話キーを離すと、マイク電流の影響を受けずに着信音声だけを聞くことができる。


E. 運用開始・操作・収納

I. 発信側・着信側の準備

41) 運用開始前に電池(Feldelement)をセット
フタを開けて受話器を取り出し、電池カップのフタを開けて電池を取り出す。印刷の指示どおり電解液を準備し、外面が完全に乾いてから電池室のカップに戻す(カップ内では波形段ボールや紙で軽く固定)。
亜鉛極を一方の電池端子へ、もう一方の炭素極はワックス被覆線で反対側の端子へ接続し、電池室のフタを閉める。
※注釈
プラス、マイナスを意識せず接続が可能。


42) 線路の接続線式(2芯)ならLaとLb/Eへ。端末は端子台の絶縁リブを越えてはみ出さないよう注意。単線接地式ではLaに線路、Lb/Eは接地(アース)。
※注釈
2芯式の場合、LaとLbを意識せず接続可能。


(電話交換局に接続する場合は接続器33、規定「H.Dv. 95/16」参照)

必要なら受話器を挿す。受話器コードや回線は、フタを閉じると左側の軟ゴム帯で挟まれて保護される。
その後、受話器はケースの上に横置き(図14)するか(肩掛け)ベルトに掛ける。クランクは右側面の穴に差し込み、時計回りにねじ込んで発電機軸へ固定。
→ これで運用準備完了。

43) 通話の手順
相手局または交換台を呼ぶには、クランクを回す(約毎秒3回転)。
次に受話器を取り上げ、送話キーを押し、相手の応答後に会話する。
終了時は受話器をフタ上に戻すかベルトに掛け、最後に「終話ベル」(abgeläutet)を送って通話終了を知らせる。
※注釈
「終話ベル」は終話信号とも呼ばれ磁石式電話機における通話手順の最終項目。
「電話を掛けた側」がクランクを1回だけ回し交換手に終話を知らせる。


呼出・終話の定義
・呼出し:クランクを1セット=クランク3回(標準速度:毎秒約3回転)と定義する。相手が応答しない場合は1セットを再実施する(最大3セットまで)。
・終話:クランク1回(短く1回転)を行うことで終話信号を送る。
運用では「呼出し=クランク3回、終話=クランク1回」を標準とする。

E. 運用開始・操作・収納(つづき)

44) 収納(梱包)
フタを開け、回線コードを外す。
発電機のクランクは左回しでねじを外し、ユニット側の収納凹部に差し込む。
受話器のコードは本体の長さに沿って巻き付け、受話器をユニットの上に載せる。
交換用コード(Vermittlungsschnur)は電池カップ横の収納部へ。
※注釈
受話器は受話側を電池室上に、マイク側を凹みに合わせて格納する。
格納する向きがあるので注意。




II. 簡易交換所としての使い方

45) FF-33 の接続ジャックを使えば、小さな交換所としても運用できる(図22)。
例:A が B と話したい。
Aが装置 CⅠを呼び、そこで受けた通信兵は、CⅠのジャックに交換用コードの一方のプラグを挿す。つぎに装置 CⅡのクランクでBを呼び出し、もう一方のプラグをCⅡのジャックへ。
→ A と B が接続される。
※注釈
AとBが通話可能となる。


CⅠ/CⅡのどちらの装置からも傍受(モニタ)でき、実際に A–B が通話しているか確認可能。通話終了時の終話ベルも CⅠ・CⅡのベルが反応するので両装置が回線に入っていることがわかる。





46) 通話が終わったら、CⅠと CⅡ側のプラグを抜いて回線を解放する(図23)。頻繁に交換する場合は、片側だけ抜くやり方でもよい。
複数回線 A・B・C・Dを同時に一括接続する場合は図24のように配線し、このときEの局に全局がぶら下がる(同一線に乗る)扱いになる。
※注釈
Eの電話機群を図24のように接続した場合、A・B・C・Dのどの箇所から呼出ししてもA~Eの電話機ベルが一斉に鳴る。この場合、どの電話機の着信か不明であるから実際に運用する事は稀と考える。




F. 点検

FF-33 の点検は、迅速点検(受け渡し時などの簡易チェック)と、本格点検(故障時などの詳細チェック)に分ける。
迅速点検は受領・配備時に実施して、不良なら使用前に交換できるようにする。
本格点検は、部隊で運用中に不調が出た場合や、配線や部品が入れ替わった疑いがある場合に行う。

I. 迅速点検(Beschleunigtes Prüfen)

48) 機械的点検
欠品の有無(クランク、受話器、交換用コード、電池、肩掛けベルト)。
軽く振って内部で部品やねじがガタつかないか。
保護板の動きやジャックに汚れが噛んでいないか。

49) 電気的点検
a) “吹き込み試験”(通話回路)
受話器を耳に当て、送話口に強く息を吹きかける。
回線端子を開放:送話キーを押すと息の音がはっきり聞こえ、キーを放すと消えること。
LaとLb/Eを短絡:息の音はやや弱くなる。キーを放すとかすかな音も消える。さらにクランクを回すと息の音は少し小さくなり、クランクを離すと再び大きく聞こえる。ただし完全には消えないこと。
クランク復帰ばね:軽く回してどの位置からでも確実に復帰するかを確認。
※注釈
マイク発信には1.5V電源が必要な為、同試験は電池を正しく接続してから実施する。


b) “クランク試験”(呼出回路)
端子開放:発電機は軽く回るが、試験ボタンを押してもベルは鳴らないこと。
LaとLb/Eを短絡:クランクは重くなり、試験ボタンを押すとベルが大きく鳴ること。

II. 本格点検(Eingehendes Prüfen)〔冒頭のみ〕

50) a. 機械
錠前や保護板がスムーズに作動するか、肩掛けベルトの吊り金具がしっかり嵌合して保持されるか、などを確認。

II. 本格点検(Eingehendes Prüfen)つづき
〈交換用コードと端子まわりの確認〉

交換用コード(Vermittlungsschnur)の差し込み確認
両端の二線用プラグをジャックに挿し、抵抗なく奥まで入って抜けずに保持されること。

電池端子の確認
電池室のフタを開け、端子ネジが頭までねじ込めること、導線を確実にクランプできることを確認。左回しで止まる位置まで回して、脱落防止(キャプティブ)になっているかも確かめる。

51) b. 電気:別のFF-33とヘッドセットを使う

結線
点検対象の FF-33(I)の La/LbE を、正常品の FF-33(II)の端子へワックス被覆線で接続。Iには検査済みヘッドセットを挿す。

各部の動作

発電機:Iのクランクを回す → IIのベルだけが鳴る(Iは鳴らない)。
試験ボタン:Iのクランクを回しながらIの試験ボタンを押す → IとIIのベルが鳴る。
ベル:IIのクランクを回す → Iのベルが鳴る。
送話キーとマイク:Iの送話キーを押して送話口に息を吹き込む → IIの受話器でサー音が聞こえる。キーを放すと消える。
発電機の自動切替機構:Iの送話口に息を吹き込みつつ Iのクランクを短く数回回す → II受話器のサー音が回転ごとに少し弱まり、クランクを離すと元の大きさに戻る。
接続ジャック:IとIIのジャックに検査済みの交換用コードを挿し、同じ試験を再実施する。

交換用コード単体の導通試験(テスターによる試験)
両端プラグの先端 → 次に首部へと、電池入りのテスト箱または線路試験器を当てる → 計器が振れる。
コードを動かしても針の振れは変化・消失しないこと。
さらに片側プラグの先端と首に計器を当てた場合は、振れてはいけない(動かしても×)。

テスト器(テスター)がない場合の代替
検査済み FF-33 のジャックにコード片側を挿し、その受話器の送話口に息を吹き込む。
このとき、遊んでいる側のプラグ先端でLb/E、首でLaに触れると、受話器のサー音が明らかに弱くならねばならない。

〈ヘッドセットだけで行う点検〉

52) 検査済みヘッドセットを La/LbE に直結して試験:

発電機:クランクを回す → ヘッドセットに鈍いガリ音が聞こえる。
試験ボタン+ベル:試験ボタンを押しつつクランクを回す → ベルが鳴り、ヘッドセットのガリ音は継続。
マイク:送話口に息を吹き込む → 受話器では弱く、ヘッドセットでは強いサー音が聞こえ、送話キーを放すと消える。ヘッドセットを端子から外すと受話器のサー音がより強くなる。

53) 以降の試験ではヘッドセットを端子から外し、FF-33本体の該当ソケットへ挿す。

交換装置チェック:検査済みコードの片端をジャックへ挿す。遊んでいる側の先端で Lb/E、首で La に触れ、送話キーを押して息を吹くと、触れている間は受話器の吹き込み音が小さくなる。
交換用コード:試験方法は51項と同じ。

54) FF-33もヘッドセットも無い場合は、本格点検は不可。

55) 以上の確認で原因が特定できないときは、不具合内容を付記して工場(整備所)送りとする。




G. 故障とその対策(抜粋)

下記は「症状/考えられる原因/確認と対処」を並べたものです。

1) まったく会話ができない

電池が未接続・未活性化・消耗
→ 端子の結線を点検、電圧を測る。
※注釈
電圧は1.5Vが標準、1.0V未満は電池が消耗している。


マイク不良・欠落
→ マイクを交換(または装着)。

La–Lb/E の線が端子で触れている(短絡)
→ 配線を点検し、必要なら修正。

受話器(カプセル)不良
→ 受話器を交換。

外線の断線
→ 試験ボタンで回線試験。
※注釈
49) 電気的点検のb) “クランク試験”を実施する。
試験ボタンを押しながらクランクを回すと自機ベルが鳴る。
鳴らない場合に外線の断線を疑う。


外線の漏電(地絡)
→ フィールドテスターやラインテスターで回線を点検。

2) 会話はできるが、呼び出し(ベル)が届かない

ベルの調整不良/故障
→ 機器交換。修理は整備所で。

自機のベルは正常・相手側の発電機(発電機)が不良
→ 相手局に連絡して点検を依頼。

外線の漏電
→ 回線をテスターで点検。

3) 自局の呼び出しが出ていかない

自機発電機の故障
→ 試験ボタンで確認。修理は整備所で。

4) 会話がときどき途切れる

電池端子・回線端子の緩み
→ 締め直す。

外線の断線・接触不良
→ 途切れ時に試験ボタンで回線試験。

外線の一部がむき出しで触れている
→ 点検して絶縁処置。

5) 交換接続(パッチ)を使うと会話が途切れる

プラグが奥まで入っていない
→ しっかり差し込む。

交換用コードの断線
→ 試験して修理(交換)。



H. 調整

57) FF-33 の各部は工場で検査・正規調整済み。

58) マイクは調整不能。長期使用で劣化したら交換。
※注釈
マイクは炭素マイクのため炭素粒が湿気で固着する場合がある。
対処法としてマイクカプセルを取り出し軽く叩いて固着を割り炭素粒が動く様にする。


59) 受話器カプセルの調整は専用工具が必要。調整が必要なときはカプセルを交換し、不良品は整備所へ送付。



J. 取り扱いと清掃(抜粋)

60) 電話手(または通信兵)が行ってよい作業:

a) ケース開放・電池室開放・ユニット取り外しでアクセスできる全ての部品の清掃。

b) 発電機の給脂:使用状況に応じおおむね2年ごと。
回転軸の軸受・カム溝・クラッチピンへ少量の油/グリス。
アンカー軸のフェルト輪には十分に含浸。
歯車の歯と駆動軸の継手にはギヤグリス。

61) 取扱注意:

衝撃・落下や湿気・汚れから保護する。濡れた場合は水分を拭き取り、内部に入ったときはユニットを取り出して十分乾燥させる。
※注釈
本体ユニットが十分に乾燥する前に動作するとショートし機器を損傷する。注意。


輸送時は立てて運ぶ(電解液がこぼれて配線を傷めないように)。
長距離輸送・長期保管や、保管中に劣化の恐れがあるときは、装着済みの電池をケースから外す。




K. 寸法と重量

62. FF-33 の外形寸法

長さ:28 cm
幅:10 cm
高さ:21 cm

※肩掛けベルトや金具を付けた状態で収納に必要なスペースは、30 × 10 × 26 cm になる。

63. 主な構成部の重量
a) 金具付き外箱 …… 1.65 kg
b) 肩掛けベルト …… 0.21 kg
c) 内蔵ユニット+発電クランク …… 2.88 kg
d) 野戦用電池(装着状態) …… 0.50 kg
e) ハンドセット …… 0.53 kg
f) 交換用コード …… 0.07 kg
合計重量:5.84 kg



(末尾記載)
ベルリン、1934年10月10日
陸軍指導部長
代理:フェルギーベル






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