■取付式拡大鏡 / Vorsatzlupe








小銃用望遠照準器「ZF40」「ZF41」の照準調整を行う際に、接眼レンズ側に装着する光学機器(拡大鏡)。これにより1.5倍という低倍率の視野中央部を拡大し、標的とレティクル線をより高精度かつ明瞭に確認することができる。また、内蔵プリズムによって視野を側方から確認できる。ドイツ軍の正式名称は「Vorsatzlupe」となっており、直訳すると取付式拡大鏡となる。

拡大鏡の他に、照準調整で対物レンズ鏡胴を回転させるための調整棒(Berichtigungsdorne)が2本、十字溝を持つ対物レンズ固定リングを回すための専用レンチ(Berichtigungsschlüssel)が付属する。拡大鏡、調整棒、専用レンチの3点は兵器係が使用する装備品であり、大型兵器整備工具箱(großen Waffenmeisterwerkzeugkasten)に収納することが定められていた。

※紹介品の取付式拡大鏡は Kentomon氏から借用させて頂きました。












本体は全金属製で黒色に近い塗装仕上げ。全長95.5mm、幅24.5mm、高さ40mm。




ZF41の光路を90度偏向させ照準器の側方から視野を確認できる。対物レンズを回転させて照準調整を行うZF41では、照準器の真横から視野を確認できれば作業効率がアップする。




青い「+」は1942年11月以降に採用された寒冷地での使用にも適するグリスを表すグリス記号。ここから本個体は1943年頃の製造品ではないかと推測できる。「cxn」は製造メーカー エミール・ブッシュ を示す。「87926」は製造番号。「V=2x」は倍率(Vergrößerung)が2倍という表記のため、1.5倍のZF41に拡大鏡を取り付けると、おおよそ3倍程度の倍率になる。




本体は2部品で構成されている。鏡胴と筐体は互いの筒に差し込まれているだけ。伸縮させれば「ピント調整」として機能し、筐体を回転させれば、任意の角度で側方からZF41の視野を確認できる。






円筒形の鏡胴内に直径13mmほどのレンズが配置されている。






直角プリズムを内蔵しZF41の視野を90度偏光させる筐体。この中にレンズは配置されていない。








写真右はエミール・ブッシュ製の別個体。表面仕上げが異なる以外は同じ。現存する拡大鏡は「cxn」と「krq」の製造メーカーコードが確認でき、krq もエミール・ブッシュを指す(エミール・ブッシュが管轄する海外下請けメーカーが生産したもの)。よって、製造はエミール・ブッシュ1社の可能性がある。




■拡大鏡の取り付けと照準調整




拡大鏡を使用したZF41の照準調整に関しては、1941年9月8日発行の陸軍総司令部「一般陸軍通達」第22号、Nr.869「Kar98k-ZF41の照準調整」に詳細な手順が記されている。この内容を写真と共に紹介する。

・狙点を定め、100mの距離から5発を射撃。5発の平均着弾位置に印をつける。
・銃を固定架で固定する。固定架が無い場合は応急的に万力を使用してもよい。
・ZF41の照準が設定した狙点に一致するよう銃を固定する。

その後、ZF41の前後レインシールドを取り外す。上の写真がレインシールドを外した状態。




対物レンズ鏡胴の外側にあるカバー筒を止めているマイナスネジ(赤矢印)を緩める。




十字溝がある対物レンズ固定リングを止まる位置まで緩める。




最初に緩めたマイナスネジを締め込む。ネジが奥に沈み、カバー筒が回転できる状態になる。




カバー筒を回し、対物レンズ鏡胴に設けられた調整用スリットを露出させる。






ZF41の接眼部へ取付式拡大鏡を装着する。









拡大鏡上部のネジを緩め、標的上の着弾群が鮮明に見えるよう、接眼部を前後に動かしてピント位置を調整する(前後に最大8mm動く)。






ピント調整と共に、接眼部が見やすい位置・角度になるよう回転させる。上部のネジを締めて接眼部を固定する。






露出した穴に2本の調整棒を差し込み、これを使って対物レンズ側の偏心部を回転させる。ZF41のレティクル線中央を、あらかじめ標的上に印を付けておいた平均弾着点へ移動させる。




【ZF41の100m視野】
照準調整の際に拡大鏡が必要、となれば「倍率1.5倍のZF41では100m先の標的すら正確に狙えないのか?」という疑問が浮かぶ。実際に100m先の標的は容易に確認することができ、例えば人型シルエットを狙う、という使い方は問題ない。しかし、100m先の小さな弾痕を確認しながら数cm単位でレティクル線を動かして精密に調整するという用途には不十分な性能。ZF41単体では100m先の標的を高精度に視認できる性能は有していない、と言える。




倍率2倍の拡大鏡を装着した際のイメージ。視野の狭さを再現するため、視野外の暗い面積を大きく設定している。実際の視野はこのイメージよりもさらに小さく見える。1.5倍を2倍にしているので、おおよそ3倍となるが、標的上の弾痕などを確認するのはやや難しい。




拡大鏡を使用した照準調整では「より精密な調整を行うためには標的までの距離を50mに短縮するとよい」とマニュアルに書かれている。これは拡大鏡を使っても正確な調整を行うには精度が不十分であり、さらに距離を半分にすることを勧めている。

拡大鏡を付け、距離を50mに設定したイメージ。ここまでやると、ようやく標的上の弾痕などが確認できる。




■ZF41 照準調整のマニュアル全文

前掲の内容と重複する部分もあるが、1941年9月8日発行・陸軍総司令部「一般陸軍通達」第22号、Nr.869「Kar98k-ZF41の照準調整」には拡大鏡を使用した照準調整の方法が詳細に掲載されている。以下に全文の日本語訳を紹介する。

869.Kar98k-ZF41(照準眼鏡付き小銃)の照準調整
Kar98k-ZF41の照準調整は次の手順で行う。
まず100mの距離から5発を射撃し、5発の平均弾着点が分かるよう標的上に印を付ける。

銃をH.Dv.477 Iの図8に示された照準固定架に固定する。固定架がない場合は応急的に万力を使用してもよい。銃を固定した状態で、ZF41の照準が設定した狙点に一致するようにしておく。

より精密な調整を行うためには標的までの距離を50mに短縮するとよい。ただし100m射撃で得られた狙点と平均弾着点との差を50mで修正する場合は、そのずれの50%だけを修正すること。

ZF41の調整手順
ZF41前後のレインシールドを取り外し、対物レンズ鏡胴のカバー筒を固定している保持ねじを緩める。

十字溝が切られた対物レンズ固定リングを、止まる位置まで緩める。

保持ねじを奥へねじ込み、カバー筒がねじの上を通って回転できる状態にする。続いてカバー筒を回し、対物レンズ鏡胴に設けられた調整用スリットを露出させる。

接眼部へ専用の取付式拡大鏡を装着する。拡大鏡の固定ねじを緩め、標的上の弾着群が鮮明に見えるよう接眼部を調整し、再び固定ねじを締める。

露出した穴に2本の調整棒を差し込み、これを使って対物レンズ側の偏心部を回転させる。

そしてZF41のレティクル線中央を、あらかじめ標的上に印を付けておいた平均弾着点へ移動させる。

これにより照準点と平均弾着点が一致。狙点と弾着点が一致する状態を得るために必要な量だけ、ZF41の照準が修正されたことになる。

調整が終わったら2本の調整棒を抜き、保持ねじが穴から見える位置までカバー筒を元の位置へ回す。

保持ねじの頭がカバー筒表面より上に出る位置までねじを戻し、対物レンズ固定リングをしっかり締め付けた後、保持ねじも締める。

取付式拡大鏡を外し、前後のレインシールドを取り付ける。

最後に射撃を行い、射撃性能・弾着状態を確認する。

Kar98k-ZF41用として規定された武器係用調整器材一式は、
・取付式拡大鏡(Vorsatzlupe) 1個
・標準調整レンチ(Berichtigungsschlüssel) 1個
・照準調整棒(Berichtigungsdorne) 2本
で構成され、これらは大型兵器整備工具箱に収納して携行する。
また、この器材を付表 J 3401(Anlage J 3401)に追記する。

陸軍総司令部
1941年8月15日
文書番号 7433/41
一般陸軍局・歩兵監部(第VII部門)




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